大気開放型温水機とは
新たな区分「大気開放型温水機」とは何か?
令和4年2月18日の労働安全衛生法施行令の改正に係る通達(令和4年2月18日基発0218第2号(第1条解釈例規(88)の第1の(4))により「温水ボイラーのうち、大気開放型であって、その内部の圧力が0.05MPaを超えることのないものにあっては、いずれの区分のボイラーにも該当しないこと。」との解釈が示されました。

規制緩和後の木質バイオマスボイラー(温水)の区分
これは、欧州圧力機器指令PED97/23/ECでは圧力が0.5bar以下の機器は同指令の適用外であることを参照し、日本木質バイオマスエネルギー協会が日本においてもこれと同等の扱いにすることの要請を行った結果、「大気開放型」という条件のもとで、部分的に厚生労働省に認められたものです。
日本では、「無圧式温水発生機」の規格としては、JIS B 8418:2000「無圧式温水発生機」や日本暖房機器工業会のHA-010「無圧式温水発生機」があるほか、国土交通省の「公共建築工事標準仕様書(機械設備工事編)」による定義があります。後者の無圧式温水発生機とは、「ボイラー及び圧力容器安全規則」第1条の解釈例規「労働省労働基準局長通達」37基収第7217号に規定する開放型の温水ボイラーに該当するものと定義されており、このような開放型温水ボイラーは、ボイラー本体に圧力を有する水を蓄積しないため、ボイラー及び圧力容器安全規則第1条第3項にいう「温水ボイラー」に該当しない、という判断をベースにしています。 よって本来、ボイラー水とは圧力を有してはならないものであるため、無圧式温水発生機はJIS B 8418の付図1の構造の例のように、ボイラー上部に水面を持つべき構造として設計されてきました。

JIS B 8418 付図1 無圧式温水発生機の構造の例
しかしながら、国土交通省標準仕様書の解説書である「機械設備工事監理指針」において、下記の「図1.2.3 無圧式温水発生機の例」として、ボイラー本体上部に開放タンクを配管接続された図が示されているため、このような開放タンク接続の形態も認められるとの理解のもと、輸入バイオマスボイラー(有圧式)に開放タンクを接続することにより、無圧式温水発生機として導入された事例も複数あります。ただし、開放タンクの高さは何メートルまでであれば無圧式と扱われるかいう定義が無いため、事業者により開放タンクの高さは様々でした。
今回、冒頭の解釈例規により、0.05MPa、つまり水頭圧4.9m以下の場合は温水ボイラーに該当しないと示されたため、無圧式として取り扱う条件も明確になりました。

機械設備工事監理指針令和7年版より
図1.2.3 無圧式温水発生機の例
これらを踏まえると、無圧式温水発生機の定義を「0.05MPa以下の温水機」とする事も一つの考え方ではありますが、JIS B 8418の図の構造の例は熱媒水を大気に開放したものとしての図であるため、「0.05MPa以下の温水機」を無圧式温水発生機と定義することは必ずしも適切ではありません。
このため、一般社団法人バイオマスボイラ工業会により、現在作成が進められているJIS原案(規格仮称:温水用木質バイオマスボイラ)では、(簡易)ボイラーと「大気開放型温水機」の二つを定義し、従来の「無圧式温水発生機」は「大気開放型温水機の圧力0の場合の特殊な形態」である、と整理しています。

一般社団法人バイオマスボイラ工業会資料より
大気開放型温水機の例
「大気開放型温水機」の使い方
大気開放型温水機は、設備構成や設計次第で、「無圧式温水発生機」又は「有圧式ボイラー」といった2つの異なる使い方が可能となることが特徴です。具体的には、先述の図(大気開放型温水機の例)のように熱交換器を設置し、二次側を高い圧力で給湯や暖房に使用する場合、無圧式温水発生機と同様の使い方が可能となります。4.9m以下の高さの位置に開放タンクを設置する場合は、有圧式ボイラーとして使用することが可能となります。この場合、密閉式システムと同様に、還り温度制御の三方弁と組み合わせることにより、蓄熱タンクを成層管理し、暖房負荷において負荷変動に強いシステムを構築することが可能です。ただし、給湯負荷においては、0.05MPa以下の圧力では十分な給湯が難しいため、加圧ポンプの設備や給湯熱交換器設備が必要となります。

一般社団法人バイオマスボイラ工業会資料より
大気開放型温水機のQM配管システムの例
「大気開放型温水機」の利点
① 大容量化が容易・伝熱面積の制限無し
大気開放型温水機は伝熱面積が区分要件とされないため、化石燃料又は木質バイオマス燃料のいずれであっても、大容量の温水機が伝熱面積の制限なく使えます。
② 安全
開放タンクが設備されているため、万一沸騰しても安全です。特に、炉内に長時間、木質バイオマス燃料が残りやすい薪ボイラーに適しています。
③ システム設備の簡略化が可能
密閉膨張タンク・逃し弁・熱交換器が不要なボイラー設備の構築が可能です。
④ 水圧試験が不要
大気開放型温水機に必要な水漏れ試験では水圧試験が不要であり、QMシステムに準拠して化石燃料ボイラーとの併用運転を構築する場合にも、伝熱面積の制限なく化石燃料ボイラーを使用できます。
⑤ 高温を使用可能
圧力0.05MPaの沸点は111℃(無圧は99.6℃)であるため、従来よりも高温で温水機を使用可能です。
「大気開放型温水機」の課題・留意点
① 接続タンクに安全装置がない場合
接続タンクに安全装置がない場合は第一種圧力容器となるため、対策が必要です。(なお、無圧式温水発生機とのタンク接続は温水温度が100℃を超えないため、第一種圧力容器に適合しません。)
② 圧力不足の場合
圧力不足の場合には、対策が必要です。また給湯の場合は、熱交換器をつけて二次側給水に加圧装置が必要です。(なお、水道直結が可能な熱交換器もあります。)
