ボイラー

木質バイオマス熱利用システムの構築に当たっては、どのようなボイラーを選択するかが今後の運営、効率性の確保に大きな影響を与えます。ボイラーは、熱形態(温水、蒸気)、求められる規模、地域で確保可能な燃料の種類(チップ、ペレット、薪)、運転方式(断続式、連続式)を検討し、熱利用システム(回路、制御)に即したボイラーを選択することが必要です。

ボイラーについては、ボイラーの種類毎の大まかな特徴を踏まえ、以下のような観点からボイラーの機種の選択を行います。

  1. 要求する出力が確保できるか。
  2. 供給可能と見込む燃料に適用しているか。
  3. 温度制御の範囲に適しているか。
  4. 熱負荷に応じた運転形式(断続式、連続式)になっているか。
  5. 煙管清掃の自動化等利便性はどうか。
  6. 価格は適当か。価格については公表されていないことが多く、他との比較も困難であるが、聞き取り等を行い価格の妥当性を判断するようにすることが望ましい。
  7. 保守契約等サービス体制・部品供給体制はできているか。
  8. 取扱及びサービスマニュアルは備えられているか。
  9. 蓄熱タンク等周辺機器との適切な接続が可能か。
  10. 温水ボイラーについては労働安全衛生法におけるボイラー規制の簡易ボイラーに相当しているか(500㎾程度以下であれば決められた条件(主として水圧と伝熱面積)をクリアーすれば簡易ボイラーに位置づけられる)。

木質バイオマスボイラーは化石燃料ボイラーと異なり、燃料の選択・点火方式・灰出し装置・集塵装置等の周辺機器の選択肢が多く、また温水ボイラーについては、今回の労働安全衛生法のボイラー規制の緩和による冷却装置さらに新たな温水システムとしての蓄熱タンク制御の有無など選択項目が多くあります。なお、選択の考え方に挙げられている断続式、連続式については、自動点火が断続式、手動点火が連続式に相当します。

燃料については、チップ、ペレット、薪に区分されますが、このうちチップボイラーは、さらに乾燥チップと湿潤チップに区分されます。ただし、チップの水分は目安であり、もう少し多めのもの(乾燥チップボイラーでは45%程度まで、湿潤チップボイラーでは55%程度まで)もそれぞれの区分の中に含まれています。実際に機種を選択する場合には、機種ごとに指定されている水分を確認することが必要です。

ボイラー種類の選択

ボイラーの種類ボイラーの機能の特徴導入動機に関連して導入に適する条件
チップボイラー(乾燥チップ 水分25~35%程度)・輸入ボイラーを中心に断続運転可能であり、小規模で多様な熱需要に対応し易い。
・輸入ボイラーを中心に高度に自動化されている。
経済性:多様な熱需要に対応できるので経済性が得られやすい。
地域経済:地域の木質を利用して、地域経済の循環や林地の活性化にもつながる。
CO2削減:ボイラー効率も高く、CO2削減効果は一般的に高い。
比較的小規模な用途で、乾燥燃料が入手できれば、多くの場合で導入候補となる。
チップボイラー(湿潤チップ 水分35~45%程度)・安価な高水分チップが利用できる。
・燃料の特性に応じた多くのタイプがあるが、連続運転を基本として大型。
・輸入ボイラーを中心に自動化は進んでいる。
経済性:連続運転を前提とするため、対応できる熱需要の種類に制約はあるが、適切に導入されれば高い経済効果が期待できる。
地域経済:地域の木質を利用して、地域経済の循環や林地の活性化にもつながる。
CO2削減: 湿潤チップで効率は多少低いが、低質で捨てられていた木質を利用することができることからその場合には高い削減効果がある。
熱負荷の変動が小さな場合に適する。
変動があっても熱負荷のベースの部分を受け持つ利用の仕方もある乾燥チップボイラーに比べて大型になるが、水分の高い低質のチップが利用できるメリットがあり、多くの場合で導入候補となる。
ペレットボイラー・ペレットは燃料供給が安定し、水分も低いので、燃焼の安定性が得られやすい 燃料として流通しており、小規模でも利用し易い。
・日本でのペレット価格は一般的に高価であり、経済性が成立しにくい。
経済性:日本でのペレット価格が高価であるため、経済性が得られる場合が限定されている。
地域経済:地域にペレット工場があり、そのペレットの活用出口の一つである場合は、重要な貢献をする。ただし、事業継続ができるように注意が必要。
CO2削減:ペレット加工時にエネルギーを使い、輸入ペレットなど長距離輸送されるものもある。CO2削減につながるかどうかの確認が求められる。
地域にペレット工場が存在し、そのペレットを経済性に見合う安価な価格で入手できる場合には、導入の候補となる。
一方では、ペレットを安価に生産するためには規模が関係し、地域内の生産を目指し小規模工場を設置するような場合には、コストを確認することが重要となる 。
ペレット自体は、流通製品であるのでその価格と比較する。
薪ボイラー・燃料が自動供給でないため、人手がかかる。
・ボイラーの初期費用は最も安価である。
・多くは小規模な個人ユースとなる。
経済性:人件費を考慮しなければ、経済性が得られやすい。人件費を加味すれば、経済性の成立は難しい。
地域経済:薪より高い価値の用途がなければ、地域経済に貢献する。
削減:人手が必要なことから、長く持続して利用してもらえるかどうかが重要である。
個人ユースでは導入の候補となるが、燃料供給に人手が必要となり、長期間にわたって運転体制を維持できるかの判断が必要である。
木質バイオマス熱利用(温水)計画実施マニュアル 実行編 表13-4より

運転方式として、断続式と連続式の違いがあります。熱負荷のタイプにより、変動に対応し易いのが断続式で、比較的平準な場合は連続式が選択できます。

断続運転可能タイプと連続運転タイプのボイラーの利用のされ方の違い

ボイラーの特徴ボイラーサイズの選定や熱供給システムの特徴
断続運転可能タイプ・ボイラーのオン、オフを繰り返す使い方ができる。ただし、起動、停止に時間を要するので蓄熱タンクが不可欠である。
・燃料は乾燥チップ(水分25~35%程度、最大で45%程度も運転できるが効率は低下)しか利用できない。
・水分が高くなれば、効率の低下のほか、冬季にはサイロでの燃料の凍結やブリッジ、燃焼トラブルなどが起きやすくなる。このような高水分燃料を使う場合のトラブルは連続運転対応でも同じ。
・欧州製ボイラーの熱効率は、ほとんどが90%を超える。
・欧州製ボイラーでは、停止時の余熱を蓄熱タンクに移送し、オン、オフに伴う熱損失を低減している。
・24時間連続稼働を前提とせず、需要家の熱負荷変動が大きくても、蓄熱タンク容量を適切に設定すれば利用できるので、熱負荷パターンの運用範囲が広い。
ボイラーサイズを多少大きく設定して、バイオマス依存率を高める設計をする方が経済性が得られる場合が多い 乾燥チップの必要性の制約はあるが、熱需要パターンの制約が少なく、多くのユーザーに対応できる。
連続運転タイプ・24時間連続運転を基本とする。
・燃料は低質、湿潤チップ(35~45% 程度)が利用できる。湿潤チップは乾燥チップよりも安価であり、燃料費を抑えることが可能 ボイラーの種類によっては50% 以上の水分でも燃料にできる機種もある。
・中~大型の機種となる。
・燃料の水分が高いため熱効率は断続運転可能タイプよりも10% 程度低目となるが、安価な燃料を使うことによって事業性を高められる面もある。
・欧州製ボイラーでは、種火モードを持ち、停止後の再立ち上げの時間を短縮した機種もある。
・熱負荷変動が小さな場合に適しており、安価な燃料を利用できる可能性がある。
・欧州製ボイラーでは、種火モードを持ち、停止後の再立ち上げの時間を短縮した機種もある。
熱負荷の変動が少ない場合は、安価な燃料が使用できる場合もあるが、ボイラー規模が大きくなるので、事業系で一定熱需要がコンスタントに存在する場合に適している 欧州でみられるように、冬季の暖房メインであれば暖房期間はほぼ一定熱負荷であり、冬季のみの使用のケースもある。
熱負荷変動が大きな場合には、バイオマスボイラーはベース負荷に対応するものとし、ベース負荷を上回る熱需要に対しては大きな蓄熱タンクの設置やバックアップボイラーである石油ボイラーで対応するよう、これらを組み合わせたシステムとする場合がある。この場合、バイオマスボイラーの稼働率は高いが、バイオマス依存率は低くなる。
木質バイオマス熱利用(温水)計画実施マニュアル 実行編 表13-8より