コスト分析・事業性評価
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コスト分析・事業性評価の重要性
事業性を確保し効果的に運営するためには、計画段階でコスト分析を適切に行い、事業性を的確に評価するとともに、事業運営段階でも実績を把握し、計画との違いを分析し、問題点等の把握・改善を行うことが重要です。
計画段階のコスト分析・事業性評価としては、イニシャルコストとランニングコストを試算し、それに基づき投資回収年数等を算出することとなります。
これらの試算は、事業構想、FS調査、基本設計のそれぞれの段階で把握できるレベルが異なっています。事業構想の段階では、極めて大まかな分析に留まらざるを得ませんが、基本設計段階では、事業着手の最終決定がなされることからできるだけ詳細に把握分析することが必要となります。
イニシャルコストの内容
FS調査、基本設計の段階で把握すべきイニシャルコストの内訳は表の通りです。
イニシャルコストの内訳と重要度の例
分類 | 重要度 | 内容 | |
---|---|---|---|
建築工事 | 既存撤去工 | 埋設物の除去 | |
土木・造成工事 | 用地の整地 | ||
建築工事 | ◎ | ボイラー建屋やサイロの設置 | |
煙突設置工事 | ◎ | 煙突の設置 | |
機械基礎工事 | ◯ | 機械基礎の設置 | |
機械設備工事 | 給排水工事 | ◎ | 給水・排水 |
配管工事 | ◎ | 温水配管等 | |
保温工事 | ◎ | 配管の保温 | |
機器設置工事 | ◎ | ボイラー等の据付 | |
換気工事 | ◯ | 建屋の換気機器の設置 | |
照明工事 | ◯ | 建屋の照明機器の設置 | |
電気設備工事 | 動力工事 | ◎ | ボイラー等の電源工事 |
制御工事 | ◎ | 各種機器、計器の制御 | |
通信工事 | ◯ | 各種機器の通信 | |
試運転・調整費 | ◎ | ||
その他(調査・設計) | 設計費 | ◯ | |
測量・地質調査費 | ◯ | 確認申請、地盤強度確認 (申請費用も含む) |
木質バイオマス熱利用(温水)計画実施マニュアル 実行編 表11-2より
ランニングコストの内容
FS調査、基本設計段階で把握すべきランニングコストの内訳は表の通りです。
ランニングコストの項目例
支出項目 | 重要度 | 予算見積もりに必要な項目 |
---|---|---|
木質燃料購入費 | ◎ | 木質燃料購入単価 木質燃料消費量(熱需要、燃料品質(低位発熱量)から算定) |
電力代 (設備運転の電力料金) | ◎ | ボイラー動力 ポンプ動力 その他動力 電力購入単価 |
点検費 (日常の点検・灰出し作業) | ◎ | 人件費 消耗品交換費用・周期 |
メンテナンス費 (メーカー点検) | ◎ | 年間稼働時間 メーカー点検頻度・費用 |
維持費 (長期間の定期交換部品) | ◎ | 年間稼働時間 交換費用・周期 |
測定費(ばい煙測定費用) | ◯ | (測定が必要な場合) |
灰処理費 | ◎ | 燃料の灰分割合 処理費用(産廃処分等) |
木質バイオマス熱利用(温水)計画実施マニュアル 実行編 表11-5より
事業性評価の内容
これらに基づく事業性評価については、投資回収年数(投資額÷年あたり収益)が使われるのが一般的です。
この手法は、直感的に何年目までに投資額が回収でき、それ以降は事業としての収益となるということが理解できるためにわかりやすいとされています。このほか、よく議論されるのがIRR(内部収益率)です、IRRは大雑把に言えば、事業投資により得られる現金収入の合計が投資として何%の運用利回りに相当するかを算出するものです。
投資回収年数を算出したモデルを例示すると以下の通りです。ただし、これらは、実際に即して計算することが必要ですし、想定する数値は変動する可能性があることを理解し、変動のリスクを認識していくことも必要です。また、より効率化を図るためには何を考えるべきかということにもなります。
乾燥チップボイラー 300kW のモデル設定値
大項目 | 小項目 | 単位 | 設定値 | 備考 |
---|---|---|---|---|
設定条件 | 燃焼効率 | – | 90% | |
A 重油消費量 | ℓ/年 | 全体で160,000ℓ | ※このうち、85%をチップに代替したとする | |
チップ水分 | – | 30% | ||
初期費用 | 千円 | 60,000 (設備費42,000) | 20万円/kW | |
実質負担 | 千円 | 30,000 | 補助金適用後 | |
チップ単価 | 円/トン | 12,000 | ||
チップボイラー導入の効果 | 代替熱量 | MWh/yr | 1,191 | 代替熱量MWh/yr 1,191 |
稼働時間 | h/yr | 3,970 | A重油85%代替より算出 | |
削減重油量 | ℓ/yr | 136,000 | ||
CO2削減量 | トン-CO2/yr | 369 | 2.71kg-CO2/ℓより算出 | |
チップ需要 | トン/yr | 372 |
乾燥チップボイラー 300kW のモデルの採算性(A重油75円/ℓのとき)
大項目 | 小項目 | 単位 | 設定値 | 備考 |
---|---|---|---|---|
初期費用の実質負担 | 千円 | 30,000 | 補助金適用後(再掲) | |
収入 | 重油削減額 | 千円 | 10,200 | |
支出 | 燃料費 | 千円 | 4,467 | |
電力代 | 千円 | 477 | ||
修繕費 | 千円 | 477 | ||
その他 | 千円 | 476 | 固定資産税(20年間の平均値で算出)・灰処理費 | |
最終削減額(年間) | 千円 | 4,303 | ||
投資回収年数 | 年 | 7 |
これらの数字の作成に当たっては、機器や施設の内容や配置、需要先との配管のあり方等を想定して行うことが必要です。特にボイラー機器の想定に当たっては熱負荷分析を行う必要があります。このため、これらを事業者で行うことは一般的には困難で専門のコンサルタント等に依頼して行うことになります。
その場合、事業者においては、依頼したコンサルタント等から積算の基になった考え方や根拠を聞き取りし理解しておくことが重要です。そのことが、実際に稼働した場合に計画と実績の比較を行うときに役立ちます。計画と実績で乖離がある場合にはその理由を明らかにすることが必要ですし、その比較においてより改善すべき点の明らかになる可能性があります。
事業構想におけるコスト分析
以上は、FS調査、基本設計段階のコスト分析でありますが、事業構想の段階でも事業化の可能性を大まかに把握するため、コスト分析を行うことが必要です。ただし、計画の詳細が整理されていない段階での試算であることから、極めて大まかなものにならざるをえません。
とはいえ、その検討を行うことで事業化の大まかな適否やFS調査で検討すべき内容が明らかになります。その意味では、できるだけ現地に合わせた想定を行うことが望ましい。この検討は、FS調査を行うコンサルタント等も決定されていない段階で行うもので、専門家等のアドバイスを受けながら事業者が自ら行わなければなりません。専門家としては、面識のあるメーカーやコンサルタントに相談することもありうるし、当協会の窓口や実践サポートプラットフォームに相談することもありうるでしょう。
事業構想におけるコスト試算
事業構想の段階では、目的の明確化、実態把握、事業コンセプトの整理が中心で、事業内容についてはまさしく構想レベルのこととなります。構想としては、実態把握から供給可能な燃料を想定するとともに、設置予定地に即して、ボイラーの規模、建屋やサイロ等の位置、熱需要先との配管等を確認します。
それらを考慮しつつコスト試算は以下により行います。イニシャルコストは極めて大まかにボイラー規模を想定し、試算します。
ボイラー規模については、既設化石ボイラーを代替する場合には、化石ボイラーの出力規模の5割と想定して試算します。(この考え方の詳細については木質バイオマス熱利用(温水)計画実施マニュアル(実行編)第12章に説明しています。)
1.構想段階でのイニシャルコスト算定に関する記入表(例)
算定式 | 想定するボイラー規模 | × | 標準コスト | = | イニシャルコスト(X) |
---|---|---|---|---|---|
記入欄 | [ ]kW | × | 20~35万円/kW | = | [ ]万円 |
なお、20~35万円/kWの数字の幅については、当該施設の建屋やサイロ、配管等の実態からみてより効率的に考えうるか、それともかかり増しになるかを判断し設定します。その設定ができづらい場合には、小さめ、大きめの幅を持った試算をしておくこともありえます。
ランニングコストについては、以下の表により試算します。
2.構想段階でのランニングコスト算定に関する記入表(例)
項目 | 記入欄 | 参考 | |
---|---|---|---|
現在使用している燃料種 | ① | [ ] | A 重油・灯油・LPG・都市ガス |
現在の化石燃料使用量 | ➁ | [ ]ℓ・㎥/年 | |
化石燃料発熱量 (低位発熱量) | ③ | [ ]kWh/ℓ・㎥ | A 重油:10.3kWh/ℓ 灯油:9.7kWh/ℓ LPG:28.5kWh/㎥ 都市ガス:10.9kWh/㎥(13Aの場合) |
化石燃料ボイラー効率 | ④ | [ ] | 一般値:0.85(85%) |
施設の熱需要量 | A | [ ]kWh/年 | 算定式:②×③×④ |
木質燃料種 | ⑤ | [ ] | 湿潤チップ・乾燥チップ・ペレット |
バイオマス代替率 | ⑥ | [ ] | 一般値:0.85(85%) |
木質ボイラー効率 | ⑦ | [ ] | 一般値:0.9(90%) |
木質燃料発熱量 (低位発熱量) | ⑧ | [ ]kWh/kg | 一般値(例) 乾燥チップ:3.6kWh/kg(水分30%) 湿潤チップ:2.9kWh/kg(水分40%) ペレット:4.6kWh/kg(水分10%) |
木質燃料使用量 | B | [ ]t/年 | 算定式:A×⑥÷⑦÷⑧÷1,000 |
木質燃料単価 | ⑨ | [ ]円/t | 一般値(例) 乾燥チップ:12千円/t 湿潤チップ:10千円/t ペレット:35千円/t |
木質燃料購入費 | C | [ ]円/年 | 算定式:B×⑨ |
電力代 | D | [ ]円/年 | 算定式:A×0.4円/kWh |
修繕費(点検費、メンテナンス費、維持費含む) | E | [ ]円/年 | 算定式:A×0.4円/kWh |
廃処理費 | F | [ ]円/年 | 算定式:B×(1-水分)×1%×2万円 |
バイオマスボイラー導入後の化石燃料使用量 | ⑩ | [ ]ℓ/年 | 算定式:A×(1-⑥)÷④÷③ |
化石燃料単価 | ⑪ | [ ]円/ℓ・㎥ | 現在の施設での購入単価を用いる |
バイオマスボイラー導入後の化石燃料購入費 | G | [ ]円/年 | 算定式:⑩×⑪ |
バイオマスボイラー導入後のランニングコスト計 | H | [ ]円/年 | 算定式:C+D+E+F+G |
木質バイオマスボイラー導入によるコストメリットを算定するため、バイオマスボイラー導入前のランニングコストを求めます。
3.バイオマスボイラー導入前のランニングコスト算定に関する記入表(例)
算定式 | 化石燃料使用量 | × | 単価 | = | 導入前ランニングコスト(I) |
---|---|---|---|---|---|
記入欄 | [ ]ℓ・㎥/年 | × | [ ]円/ℓ・㎥ | = | [ ]円 |
4.バイオマスボイラー導入によるコストメリット算定に関する記入表(例)
算定式 | 導入前ランニングコスト(I) | - | 導入後ランニングコスト(H) | = | コストメリット(J) |
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記入欄 | [ ]円/年 | - | [ ]円/年 | = | [ ]円/年 |
1で求めたイニシャルコストと4で求めたコストメリットから投資回収年数を算定します。
5.投資回収期間算定記入表(例)
算定式 | イニシャルコスト (X) | × | 自己負担割合(1-補助率) | ÷ | コストメリット (J) | = | 投資回収期間 |
---|---|---|---|---|---|---|---|
記入欄 | [ ]円 | × | [ ] | ÷ | [ ]円/年 | = | [ ]年 |
是非お使いください。
関連ページ
木質バイオマスを用いた発電・熱電併給事業の採算性評価ツール(CHP評価ツール)(国立研究開発法人 森林研究・整備機構 森林総合研究所HP)
小規模な木質バイオマスエネルギー利用の採算性評価ツール(ガス化CHPおよびバイオマスボイラー評価ツール)(国立研究開発法人 森林研究・整備機構 森林総合研究所HP)