温水ボイラーシステムの新たな展開
我が国における木質バイオマス熱利用の動向と欧州との比較
我が国の木質バイオマスボイラーの導入台数は2千台程度なのに対し、欧州ではオーストリアを例に挙げても30万台と100倍以上の違いがあります。このようなことになっている理由は自然的、歴史的要因もありますが、大きな原因は我が国では木質バイオマスボイラーが市場性を持ってこなかったということです。
石油ボイラーに比べて高コストでかつ利便性が劣っているために木質バイオマスボイラーの導入が進まず、市場が形成されなかったことです。そのため、我が国では木質バイオマスの特徴を踏まえた技術的革新がなされず、石油ボイラーの考え方を応用しながら少しずつ導入されてきました。
これに対して、欧州では、1970年代の石油ショック以降木質バイオマス熱利用の取組が活発化し、それが継続され2000年代の初めには、木質バイオマスに特化した技術的な標準の作成、ボイラーのコストダウンと利便性の向上等が実現し、それ以降、ボイラー導入が飛躍的に進みました。そのことが更なる取り組みを誘発し現在の状況となっています。
一方、我が国でも石油ショック時には木質バイオマス熱利用の取組が検討されましたが、その危機が回避されてからは石油に回帰しました。地球温暖化防止が政策課題になって以降、先進的な取組がなされていますが、なお、現状のような状況に留まっています。
我が国と欧州のボイラー制御の違い
我が国の木質バイオマスボイラーがそのような状況に留まったもう一つの大きな理由が労働安全衛生法によるボイラー規制です。
我が国では、ボイラーは危険なものとして、機器の検査やボイラー技士の配置等が求められる厳しい規制が行われてきました。
一方、欧州においては、温水ボイラーについては基本的には100℃以下で運営されるために爆発する危険が少ないとし、我が国の簡易ボイラー並みの規制で対応されてきました。
従来のボイラー規制、欧州との比較
我が国では、厳しい規制ゆえにボイラーの規制に該当しない無圧式温水機や真空式温水機が開発されてきました。
木質バイオマスボイラーは、石油ボイラーに比べて負荷変動に対する追随性が低いという特徴を持っています。石油ボイラーは負荷の変動に柔軟に対応できますが、木質バイオマスボイラーでは、燃焼速度が遅く負荷変動に即応できにくいのです。そのため、欧州では、蓄熱タンクを設けるという技術が開発されました。蓄熱タンクは、負荷変動に対応するだけでなく、より効率的な運営にも貢献します。蓄熱タンクと熱導管の間の往き・還りの温度差を大きくします。温度差が大きく取れれば、熱導管の流量は反比例して少なくすることができます。そのためには、往き・還りの温度を管理することが必要になりますが、その制御の要となるのが、蓄熱タンクにおける上部と下部の温度差を大きくする、温度成層を維持するということです。また、このことによりボイラーそのものの起動停止を制御するようにされています。
このような欧州で開発された制御方式を取り入れることが、我が国の無圧式温水機等では難しいのです。無圧式温水機では、熱交換器が介在しボイラー本体と蓄熱タンクを直結することが困難で、蓄熱タンクがボイラーを制御することが難しくなるのです。そのため、我が国では、このような考え方が十分に取り入れられず、蓄熱タンクと貯湯タンクの違いさえ理解されていない場合が多く、蓄熱タンクとされながら実際には温度成層は殆ど行われていないのです。
有圧式ボイラーと無圧式温水機の違い
ボイラー規制の緩和と新たな展開
ボイラー規制については、日本木質バイオマスエネルギー協会の要望を受け、2022年3月に木質バイオマス温水ボイラーについてこれまでの規制からすれば大幅に簡易ボイラー区分を認めるという緩和がなされました。
規制緩和の内容
この結果、500kW程度以下のボイラーについては、有圧であっても簡易ボイラーとして取り扱われることとなりました。このことは、温水ボイラーについては、今後、欧州並みの効率的なシステムの構築が可能になったということです。
蓄熱タンクを中心としたボイラーシステム
ゼロカーボンを目指す中で、化石ボイラーの販売を取りやめようという動きが出始めています。
それに対して、将来的には、熱利用の電力化を中心にアンモニアや水素を原料とするものに転換していこうとされていますが、それらは技術開発の途中であり、コストやライフサイクルとしてのGHG削減効果等についても見通しがついていません。また、熱利用を直接行うことについては、電力にしてからでなく熱そのものを利用する方がエネルギー的には効率が高いのです。
従って、少なくとも当面の熱利用については、既存技術の活用を図っていくことが重要です。その点では、欧州で成功している内容を参考に、我が国の木質バイオマス熱利用のあり方を見直し、効率的な熱利用システムを展開し、需要の拡大図っていくことが望まれます。
木質バイオマス温水ボイラーシステムについては、規制緩和もあり、今こそ、効率的で利便性の高いシステムを実現する新たな展開を図るべき時を迎えているのです。
関連ページ
木質バイオマス熱利用(温水)の新たな展開(一般社団法人 日本木質バイオマスエネルギー協会HP)