有圧ボイラーQ&A

Q1 木質バイオマスボイラーの有圧ボイラーと無圧温水機の使い方の違いは?

日本の有圧ボイラーは法的規制が厳しいため、従来、木質バイオマス温水ボイラーの多くが無圧温水機として使用されてきました。無圧温水機の缶水には圧力が掛からず安全であるため、法的規制が緩やかですが、通常、循環ポンプと熱交換器が必要です。欧州において木質バイオマスボイラーが普及している理由として、木質燃料の緩慢な燃焼反応を蓄熱タンクがカバーしてうまく安定した温水を供給していることが挙げられます。ところが、熱交換器がある場合、うまく工夫しないと蓄熱タンクの還り温度をうまく制御できません。

2022年に、有圧温水ボイラーの規制(厚生労働省の労働安全衛生法施行令)が緩和されたことにより、伝熱面積32㎡以下で圧力が0.6MPa以下の木質バイオマスボイラーは簡易ボイラーとして使用できるようになりました。この規制緩和により、約500kW以下のボイラーが蓄熱タンクと直結できるようになり、日本でも欧州と同じように使用できるようになりました。(令和4年2月18日基発0218号2号

Q2 有圧ボイラーと蓄熱タンクはどのように制御されますか。

蓄熱タンクはボイラーから出た温水を上部から下部に向かってポンプで循環して温度成層を形成します。ボイラーに戻ってくる温水の「還り温度」は三方弁で設定された温度になるように制御されます。還り温度が設定温度以下の時はボイラー内のみ循環して温度を保ち、結露によるボイラーの腐食を防止します。温水温度が設定温度以上になると、外部への温水供給を開始します。還り三方弁の温度制御は、蓄熱タンクの下部の低温を保つように働き、蓄熱タンクの上下の温度差を保つよう働きます。ボイラー温水負荷がボイラー出力より大きくなると、蓄熱タンクから温水を供給し、負荷が減少するとタンクに蓄熱します。

Q3 木質バイオマスボイラーは規制緩和されましたが蓄熱タンクは第一種圧力容器になりませんか。

温水ボイラーと貯湯タンクを接続した場合、タンク内温水が大気圧における沸点を超える可能性があるので、最高使用圧力(MPa)とタンク容量(㎥)の積が0.02を超えると第一種圧力容器に該当されることになります。但し、以下1~6いずれかのような装置を設け、タンク内部の水の温度を100℃以上に上昇させない場合には、第一種圧力容器に該当しないと解釈されます。(昭和39.1.11 基収9423号

無圧温水機とタンクを組み合わせる場合、原理的に温水温度が大気圧における沸点を超えないので、タンクは第一種圧力容器ではないと判断されます。

  1. タンク内の温度が所定の値に達すると自動的に燃焼を遮断する装置2個(うち1個は電気式でないものとする)。
  2. タンク内の温度が所定の値に達すると自動的に燃焼を遮断する装置1個と、タンク内の温度が所定の値に達すると自動的に作動してタンク内の温水を安全に外部に排出する熔解せん(径25㎜以上)1個。
  3. タンク内の温度が所定の値に達すると、自動的に作動してタンク内の温水を安全に外部に排出する熔解せん(径25㎜以上)2個。
  4. タンク内の温度が所定の値に達すると、自動的に作動してタンク内の温水を安全に外部に排出する熔解せん(径25㎜以上)1個と、タンク内の温度が所定の値に達すると自動的に作動する警報装置1個。
  5. タンク内の温度が所定の値に達すると自動的に燃焼を遮断する装置1個と逃し弁(径25㎜以上)1個。
  6. タンク内の温度が所定の値に達すると、自動的に作動してタンク内の温水を安全に外部に排出する熔解せん(径25㎜以上)1個と逃し弁(径25㎜以上)1個。

ボイラ協会発行「ボイラー及び圧力容器安全規則の解説」

Q4 蓄熱タンクが無いボイラーの運転はどうなりますか。

木質バイオマスボイラーに接続される温水負荷は通常一定でなく、変動します。熱負荷が、ボイラー定格出力の30~100%の範囲で緩やかに変化する際は、ボイラーがその変化に追従して連続運転可能ですが、その範囲を超えるとボイラーは発停を繰り返す運転になってしまいます。バイオマスボイラーの運転開始時は温度上昇に時間がかかるため温水温度の低下を招き、燃焼停止にも時間がかかるため残火で温水温度の過熱が起こります。また、運転停止時にはドラフトによるドラフトクーリングロスが発生するため、ボイラー運転効率が低下します。この理由は、ボイラーの外側は断熱保温されていますが、内部の伝熱面は断熱がないため、燃焼停止時に燃焼ガスの流れ(ドラフト)により、煙突から熱損失として大気に熱が放出されてしまうためです。

一般的に、蓄熱タンクの容量はボイラー出力kWあたり25~40lit/kWで計算されます。なお、スイスの大気汚染防止法では、25lit/kW以上の蓄熱タンクを設備するよう定められています。

Q5 無圧温水機から有圧ボイラーに変更する場合の変更機器を教えてください。

一般的に、

・不要になる機器 ⇒ ポンプ、熱交換器、無圧開放タンク、水位制御器
・追加が必要な機器 ⇒ 三方弁、密閉膨張タンク、(蓄熱タンク)
            規制緩和区分②では、停電時にも働く冷却装置も必要となります。

有圧ボイラーでは、熱交換器用のポンプが不要となるので、電気代が安くなるメリットもあります。


※圧力が0.1MPaを超えるかまたは伝熱面積が16㎡を超えるボイラーの区分

Q6 熱交換器以外に有圧ボイラーのメリットはありますか。

無圧温水式木質バイオマスボイラーは、燃焼制御反応が緩慢でかつ炉等の熱容量が大きいため、ボイラー停止命令から燃焼停止までの時間が長く沸騰する危険があるために温水温度を高くできませんでした(Max80℃程度)。特に吸収式冷温水機による冷房を行う場合、吸収式冷温水機の設計基準温度は88℃ですが、供給温水温度が80℃では冷房能力が約55~75%程度に低下してしまいます。一方、有圧ボイラーでは温水温度が100℃でも沸騰しません。また輸入ボイラーには標準的に沸騰防止の冷却熱交換器がついており、沸騰を防止します。このため吸収式冷温水機の定格出力を得る事が可能になります。

今回の規制緩和では0.05MPa(水頭圧5mAq)以下の無圧開放タンクを設置したボイラーは規制対象外と明記され、0.05MPa以下で使用すれば無圧温水機でも蓄熱タンクの直結や吸収式冷温水機直結が可能となりましたが、ボイラーの圧力が低いので限定された使い方になります。

また、無圧開放タンクを設ける場合、水面が空気と接触するために空気中の酸素が水に溶け込み腐食の原因となります。密閉膨張タンクで使用される有圧ボイラーは、温水温度上昇で一度脱気すると水中の溶存酸素が少なくなり、ボイラー缶体の耐久性が増加します。

Q7 冷却熱交換器とは何ですか。

欧州規格EN303-5:2021(Q10参照)の4.3.9.4に定められている、木質バイオマスボイラーの過熱を防止するためにボイラーに取り付ける装置です。

今回の規制緩和では、圧力が0.1MPaを超えるかまたは伝熱面積が16m2を超えるボイラーについては、「水温が摂氏百度を超えた場合に直ちに摂氏百度以下とする冷却装置」を備えることとなっています(簡易ボイラー構造規格第四条の二)。また第四条の二2では、「前項の冷却装置は、停電の場合においても有効に作動するものでなければならない」とされています。「停電の場合においても有効に作動」するものには、電気を使用しない機械式開閉弁を備え、かつ①給水装置として水道直結を行ったもの、又は②UPS付き給水装置をつけたもの、が該当します。①の場合、水道法第三者認証取得または自己認証を行って水道事業者に利用申請したもので、さらに水圧が規定以上を確認できたものが必要となります。

Q8 「水温が摂氏百度を超えた場合に直ちに摂氏百度以下とする冷却装置」で「前項の冷却装置は、停電の場合においても有効に作動するものでなければならない」に該当する装置として冷却熱交換器以外の方法もありますか。

基発の通達では、この冷却装置には「冷却水供給用の機械式開閉弁を備えた熱交換器を装備するもの」「ボイラー還り管に冷却水を直接供給するもの等」が該当するとされています。ここで「等」として挙げられるものに「溶解せん」があります。「溶解せん」が作動した場合、ボイラー缶体が大気圧となり、缶水温度が100℃以下となるため、冷却装置等に相当すると理解されます。

以上より、冷却熱交換器以外に具体的に次の装置が簡易ボイラー構造規格の冷却装置の要求に合致すると解釈されます。

  1. ボイラー還り管に冷却水を直接供給するもの。
  2. ボイラーの本体または往き管の出口に溶解せんを設置するもの。
Q9 水道法の自己認証とは何ですか。

平成9年3月19日厚生省令第14 号給水装置の構造及び材質の基準に関する省令(「基準省令」)により「自己認証」が認められるようになりました。水道法の構造と材質の基準に適合していることを、メーカー自身が消費者や水道事業者に対して説明し、これが受け入れられれば第三者認証を取る必要がありません。

認証には、メーカー等が自分自身で水道法に適合していることを証明する方法と、公平・中立・客観的な立場で第三者が証明する方法の2つがあり、前者を「自己認証」、後者を「第三者認証」と呼んでいます。

Q10 EN303-5とは何ですか。

欧州規格Heating boilers Part 5: Heating boilers for solid fuels, manually and automatically stoked, nominal heat output of up to 500 kW – Terminology, requirements, testing and marking(加熱ボイラー 第5部:固体燃料用加熱ボイラー、手動および自動点火、定格熱出力最大 500 kW – 用語、要件、試験およびマーキング)で500kW以下の木質バイオマスボイラーの規準が定められています。欧州ではTÜVやCZU等の第三者認証機関が、ボイラー出力・効率・安全性等のEN303-5規格適合を試験し、ボイラーの認証を行っています。

Q11 日本における木質バイオマスボイラーの規準はありますか。

日本では圧力容器についての耐圧に対する安全規則がありますが、EN303-5のようなボイラー出力・効率・安全性等の規格は無く、認証制度もありません。

現在、一般社団法人バイオマスボイラ工業会が、木質バイオマスボイラーの規格策定に向けた検討を進めています。

Q12 日本の業務用化石燃料ボイラーの出力や効率・安全性の保証はどうなっていますか。

木質バイオマスボイラー同様に、第三者認証による認証制度はありません。国土交通省では公共建築物に設置する機器に対して公共建築工事標準仕様書を定め、ボイラーは機械設備工事編に仕様が記載されています。業務用化石燃料ボイラーは、(一社)公共建築協会が製品に対して標準仕様書に適合しているか評価を行い、認証されるとそのメーカー型式名が設備機材等評価名簿(電気設備機材・機械設備機材)にリストアップされます。メーカーの提出書類にはHA規格に基く試験成績表が含まれていますが、自己認証の形です。公共建築物に納入するボイラーなどは通常このリストに載っている必要があります。

木質バイオマスボイラーについては平成28年度標準仕様書に木質バイオマスボイラー(無圧式温水発生機)が追加されましたが、公共建築協会では木質バイオマスボイラー評価の受付を行っていません。このため、設置現場の要求に従い照合表に適合することを個別に提出しています。国土交通省の標準仕様書は基本的には国産品が対象ですが、木質バイオマスボイラーではHA-034-2によるとの記述があるため、輸入品も適合すると解釈されています。

以上は公共建築物が対象であり、民間の建築物に対しては何の規格も存在しません。

Q13 HA規格とはなんですか。

暖房給湯機器工業の団体である日本暖房機器工業会が定めている自主規格です。化石燃料用簡易ボイラーや無圧式温水発生機などの一部製品は、JIS規格化されています。

HA-034-1木質バイオマスボイラー(真空式温水発生機)及びHA-034-2木質バイオマスボイラー(無圧式温水発生機)は国土交通省が木質バイオマスボイラー普及のため標準仕様書をつくるにあたって日本暖房機器工業会に作成を依頼したものであり、EN規格やJIS規格を引用して木質バイオマスボイラーの構造要件・安全装置の試験方法・出力効率の測定方法を定めているものです。

Q14 大気汚染防止法の規制緩和について教えてください。

大気汚染防止法施行令の一部を改正する政令」が、令和3年9月29日に公布されました。これにより、大気汚染防止法施行令別表第1におけるボイラーの規模要件が以下のように改正されました。

  1. 「伝熱面積」の規模要件を撤廃する。
  2. 伝熱面積の規模要件撤廃に伴いバーナーを持たないボイラーについては、バーナーを持つボイラーと同規模であるにもかかわらず規制対象外となることから、公平な規制にするため「バーナーの燃料の燃焼能力」から「燃料の燃焼能力」に改正する。

改正前には伝熱面積10㎡以上のボイラーは規制対象でしたが、これが撤廃され燃焼能力のみによる規制になりました。燃焼能力は重油換算50リットル以上が対象ですが、固形燃料の場合の重油換算値は大気保全局長通知により「重油10リットル」が「固形燃料16kg」に相当するものとして取り扱うよう運用されています。従って固形燃料燃焼能力80kg以上が規制対象です。「固形燃料16kg」相当は石炭を対象としたものであり、木質燃料を考慮していないと考えられます。

大気汚染防止法以外に、条例で伝熱面積による規制を行っている自治体があります。例えば愛知県では伝熱面積8㎡以上が規制対象となっているので、ボイラーを設定する各自治体に確認して下さい。