事業構想

事業者が木質バイオマス熱利用に取り組もうとされる目的は、事業主体の都合による場合のほか、地域振興や環境貢献等、色々な動機があります。これらの動機は、実際には重複しますが、どこに重きを置くかを考えておくことが必要です。目的によって事業の内容は異なりますし、部内の関係者の理解も異なります。

目的は、事業内容の検討等により変化することもありますが、その場合も事業内容の検討等に合わせ、目的の見直しを明確にすることが必要です。

目的の例

事業主体の都合①設備を更新するので、木質バイオマス熱利用に取り組みたい。
②未利用地があるので、そこを有効利用して新たな事業に取り組みたい。
③所有林があり、そこから産出する木材の有効利用を図りたい。
④化石燃料は価格の変動が大きく、ランニングコストの削減のためにも木質バイオマスに取り組みたい。
⑤事業主体としてのレジリエンスの確保に貢献したい。
地域振興⑥地域の雇用確保のために木質バイオマス熱利用に取り組みたい。
⑦地域の未利用材の有効利用を図りたい、それにより、森林・林業の活性化につなげたい。
⑧地域資源の利用により、経済の地域内循環を拡大したい。
⑨地域としてのレジリエンスの確保につなげたい。
環境貢献⑩カーボンニュートラル、GHG削減に貢献したい。
木質バイオマス熱利用(温水)計画実施マニュアル 実行編より

事業を行おうとする場合、多くは導入予定地がおおむね特定されていますが、大まかに候補地を想定し事業が可能であれば導入予定地として確保することを前提として検討が始められることもあります。
事業検討としては、まず、事業に関連する地域の実態を把握することが必要です。地域としては、想定する導入予定地に対して燃料供給を行う区域を前提として設定します。

具体的には、20~30km以内が望ましく(大きくても50km範囲)、市町村または数市町村のレベルが基本となります。

地域について把握すべき事項

  1. 地域として木質バイオマス熱利用がどのように考えられているかということを把握するために、当該市町村の振興計画や地峡温暖化対策計画等の関連計画を把握します。
  2. 燃料の供給可能性や地域における木質バイオマス熱利用の位置づけを確認するために、地域の森林資源の状況を市町村森林整備計画等で把握します。
  3. 燃料確保の可能性として当該市町村内の木材生産の実態を把握します。このことについては、市町村の統計資料によることが困難な場合は、市町村等に聞き取りすることも必要です。
  4. 地域における今後の木質バイオマス熱利用の展開可能性等を把握するため、熱利用の実態を把握します。このことについても市町村等への聞き取り調査が必要となります。
  5. その他、問題になりそうな事項等についても市町村等から聞き取りを行います。

事業の検討に当たっては、事業予定地の想定と合わせ、事業運営主体がどのようになるかを確認しておくことが必要です。
事業を行おうとする事業主体が自ら行われる場合が一般的ですが、このほか、事業主体とは別に実際に事業を運営する主体を想定することもあります。事業主体が市町村の場合は第三セクター等に、民間であれば、エネルギー運営会社に委託する場合等もあります。

そのような場合には、これらの者が参加して構想の検討を行うこともあります。

熱利用を具体的に構想するためには、導入予定施設(熱需要先)を特定することが必要です。
熱需要施設を特定するとともに、ボイラー設置場所(建屋)、燃料サイロの位置、運搬車の搬入場所等を想定します。導入予定用地にそれらをどのように配置するかを大まかに描いて見ると、導入予定施設のイメージが具体化されてきます。

なお、導入予定施設については、周辺部において騒音、排ガス、臭気、燃料搬入車の走行等で注意すべきことが無いかを確認します。

また、熱需要施設の熱需要実態から設置すべきボイラー規模を想定します。

ただし、このことについては、本来的には熱負荷分析を行うことが必要で、熱需要の実態を詳細に把握しなければなりません。
それを行うためには、専門的な知識が求められます。

従って、事業構想の段階では、大まかに既存施設について当該化石ボイラーを代替する場合は、その規模から類推するとともに、新設になる場合は、類似施設のデータを把握し、それを援用します。

なお、詳細な熱負荷分析は、基本設計の段階で行います。

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ボイラー
ボイラー検索ツール

燃料については、地域の実態調査においてどのような燃料が調達可能かを検討することが必要です。
供給可能なものは薪であるか、チップであるか、ペレットであるかを検討します。
この場合、ペレットについては、想定した地域内のみでなく比較的遠隔地から配達を受けることもありえます。

また、燃料については、地域での量的調達可能性のみでなく、燃料としての特質もあり、今後の事業運営にも関係することからそのことを理解しておくことが必要です。それらを勘案して燃料を想定するとともに、想定したボイラー規模から必要量を推計し、具体的な調達先を検討します。

また、想定した調達先からの燃料の購入価格を大まかに把握します。

このことにより、燃料確保の可能性がかなり具体的になるとともに、コスト試算も可能となります。

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燃料

事業構想の段階では詳細な収支試算を行うことは困難ですが、事業の可能性を大まかに判断する観点から、極めて大雑把な収支試算を行います。
収支試算としては、イニシャルコスト、ランニングコスト、事業性評価を行うこととなります。

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コスト分析・事業性評価

以上の検討結果を踏まえ、事業構想案を整理します。

事業構想の主な内容

  1. 木質バイオマス熱利用の導入目的
  2. 導入予定箇所の内容と事業運営主体の考え方
  3. ボイラーの規模と必要な燃料量
  4. 燃料種、燃料の調達方法
  5. 導入用地における施設の配置案(簡単な模式図レベル)
  6. 収支見込み
  7. 今後検討すべき課題

市町村等関係行政機関については事業構想の段階で意見を聞いておくことが有効です。
補助等助成の関係のみでなく、地域としての課題や問題点等についても指摘や示唆を受けることができます。

また、融資を受ける場合は金融機関の意見を聞いておくことも必要です。

なお、地域における木質バイオマス熱利用の位置づけや問題点等の把握には、関係団体や大学等の専門家の意見等も聴取することが望ましいと言えます。

本プラットフォームでは、交流プラットフォームや実践サポートプラットフォームも用意していますのでそちらの活用もいただければと思います。

事項構想の段階での事業化の適否の判断については、以下のような要因について整理し、それらを総合的に判断することになります。また、必要に応じ事業構想の再検討を行うことも必要です。

事業化の可能性ありと判断された場合においても問題点等の指摘事項を整理し、その結果をFS調査に生かしていくことが必要です。

可否を判断する主な条件

  1. 導入予定施設は、燃料消費量が一定(例えば○○m3)以上見込まれているか。
    →木質バイオマスボイラーは比較的高価で、ランニングコストである燃料費の縮減によって事業性を確保することが一般的であることから、燃料消費量が事業性のメルクマールになります。少ない場合には、個別的導入ではなく周辺も含めた複合的な導入を検討することもありえます。
  2. 条件に合った燃料の安定的な確保が可能か。
  3. 事業に見合った用地が確保できるか。
    →用地については、建屋、サイロ等の配置のほか、燃料の搬入等事業の効率的運営の基礎的条件となります。
  4. 地域の関係者が反対する可能性はないか。
    →燃料の競合や騒音や排ガス等の問題が起こりえないか等を確認することが必要です。
  5. 事業内容からみて補助等助成の確保は可能か。
  6. 投資回収期間が長くても20年以下と見込めるかどうか。
    →長くなりそうなものについては、事業のあり方を再検討することが必要です。

事業構想案についての検討結果から、FS調査に進むか否かを最終的に判断します。

なお、FS調査は専門能力のあるコンサルタント等に依頼することとなりますが、FS調査をコンサルタント任せにすることなく、事業構想の内容の評価やそこで把握された課題等についてコンサルタントから所見を聞いたり、さらにFS調査の進捗に合わせて意見交換したりすることも重要です。
そのことが、コンサルタントの能力を引き出すことに繋がります。

このようなことが事業者としてできるためには、事業構想を主体的に作成することが必要です。

木質バイオマス熱利用を効率的導入しようとする場合には、地域で面的に複数の導入を図っていくことも検討することが必要です。面的導入により燃料供給や熱供給施設の運営等に関する地域の知見が向上しますし、それらの担い手、体制が整備されることにもつながります。
面的導入については、個々の施設に一つ一つのシステムを導入するとしてもその運営管理はまとめて一事業体が行う形式や需要先をつなぎ複数の需要先に一つの熱供給施設から熱供給を行う形式(地域熱供給形式)があります。

また、その場合の担い手としては、北海道下川町のように市町村が主導して行うものや福井県あわら市の事例のように熱供給会社がまとめ役を担うものがあります。
面的導入の進める場合の事業構想の作成については、地域の熱需要の全体的把握を行い、その中でどこに木質バイオマス熱利用施設を導入すべきかを戦略的に検討することが必要です。また、それらの導入先に対してどのような燃料をどう供給するかが検討されなければなりません。

さらに、そのような全体構想の中で、事業性がどのようになるかも判断していかなければなりません。また、この場合は、関係者がより多くなることから、関係者の合意形成をどうするかについて個別導入の場合以上に意を用いていくことが必要です。

ただし、今後のあり方として、個々の施設に個々に導入するだけでなく地域として全体的に考えていくことは、燃料の継続的安定的な供給、木質バイオマス熱利用施設の効率的な運営、事業としての安定性の確保、そのための専門家の養成等からすれば極めて重要です。

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