FS調査
FS調査の位置づけと実施事項
FS調査は、事業構想で設定した事業コンセプトを踏まえ事業化の判断を行うためのより詳細な調査です。地域の実態等を踏まえ事業構想の内容を具体化し、コスト試算を行い事業性を評価するとともに、事業実施に向けた課題等についても明らかにし、それらに基づき事業に着手するかを判断します。事業着手が妥当な場合は、より具体的な基本設計を行います。
なお、事業の妥当性がおおむね確認できているとされる場合には、FS調査と基本設計を同時に行うようなこともあります。
FS調査・基本設計については、専門的な知見が必要とされるので専門的なコンサルタント等に委託して実施することになります。そのため、以下では重点的な事項について説明します。
FS調査における主な調査内容(参考)
項目 | 内容 |
---|---|
地域条件の確認 | 地域条件の確認 地域特性、事業化候補地の地形・気候条件など |
地域内の関連事業者(林業・木材関連産業、地方公共団体、その他)など | |
対象施設等の実態調査 | 施設特性・建築用途・敷地条件、周辺環境など |
施設のエネルギー利用用途、使用状況など | |
木質バイオマス燃料の生産・調達箇所、供給体制の調査 | 木質バイオマス燃料製造事業者の概要(施設場所・施設設備) |
木質バイオマス燃料製造状況(使用原料・製造手法・余剰生産能力など) | |
木質バイオマス燃料の品質(形状・水分・価格)、条件 | |
木質バイオマス燃料供給方法(積載車両・燃料積載量・運搬距離など) | |
バイオマス熱利用システムに関する調査 | 調達可能なバイオマス熱利用システム(ボイラー、関連システム等)の調査、販売店、メーカー等が対応できる技術など |
計画・施工・運営管理・メンテナンス対応など設備導入・運営管理に関わる地域内事業者の把握 | |
バイオマス熱利用システムの導入判断と技術選定、建築、敷地整備など | 新規導入による必要スペースの確認と敷地の活用条件 |
バイオマス利用システムの全体構成仕様(必要設備、能力規模)など | |
施設の設備との導入システムの合致性 | |
調達可能な木質バイオマス燃料と想定されるバイオマス熱利用システムの適性 | |
副生物の処理/利活用 | 燃焼灰等の副生物の発生量、処理方法や利活用方法 |
初期費用(イニシャルコスト)試算 | バイオマス熱利用システム、建築(建屋・サイロ) 敷地整備における工事の初期費用(イニシャルコスト)概略試算 |
ランニングコストの試算 | 事業運営する際の維持管理 メンテナンス等のランニングコスト概略試算 |
関連法規 | バイオマス熱利用システム、建築、敷地整備にかかる関連法規 |
導入支援策の調査 | 国、都道府県、市町村などの補助金等の支援策の把握 |
バイオマス熱供給事業化可能性の検証・評価 | 事業化判断(経済性・環境性) |
ビジネスモデル・事業スキームの概略検討 | |
事業実施体制、事業化に向けたスケジュールの検討 | |
計画推進上の問題点と解決方法など |
事業コンセプトの確認・評価
FS調査に当たっては、委託するコンサルタント等から事業構想の評価を聞き取り、意見交換しておくことが重要です。
コンサルタント等は、往々にして木質バイオマス熱利用についての知識は有していますが、当該地域の実態については把握されていない場合が多くあります。このため、事業者として事業をする目的は何か、構想を作成するに当たって留意した地域事情は何か等について説明するとともに、それらを踏まえて作成された事業構想についてコンサルタント等の所見を聞き取りし意見交換しておくことが重要です。
そのことはその後の調査によってさらに深められることになるとともに、見直しされる場合もありますが、意見交換を行うことにより方向性等について共通認識を持つことができます。
熱需要の把握と特徴分析
木質バイオマス熱利用システムを具体化する場合に基本となるのは、導入予定施設の熱需要の把握です。
熱需要について把握すべき内容は下表の通りですが、既設の石油ボイラー等を代替する時は実績を適切に把握することが必要です。新設の場合は、計画する建築の仕様、エネルギー用途、施設の稼働時間、気候条件等を勘案しつつ類似施設の実績から想定します。
熱需要に関する主な調査項目(参考)
視点 | 項目 |
---|---|
施設用途と実態調査 | 所在地、施設用途、延床面積、建築構造、建築年数 |
営業日数や利用客数(年月日、平日・土日・祝日) | |
施設自体の老朽化状況 ※既設施設の場合 | |
対象地の上水、源泉等の水温と時期別変動の状況 | |
設備運用状況 | システムの燃料消費量(月ごと)、※直近年状況 |
システム稼働状況( 1 日の運転時間、時期変動) | |
熱源用途の設備仕様(設備能力、熱源用途、導入年次、導入時期、耐用年数) | |
季節別のシステム運用方法 | |
設備のメンテナンス体制・運転・管理状況 |
これらの把握方法は、コンサルタント等においては既に知見があるところですが、事業者としては、熱需要の算出結果とその根拠について聞き取りをしておくことが望まれます。
エネルギー変換技術の検討と選定
熱需要の把握・分析から、導入するボイラー規模が試算することができます。具体的なボイラーの選定のためには、規模のみでなく、熱需要分析を踏まえエネルギーの消費特性とともに、ボイラーの要求する燃料の種類と品質を勘案することが必要です。
その場合、地域内で調達可能な燃料に合わせてボイラーを選択することのみでなく、ボイラーの運転や熱消費特性から望ましいと考えられるボイラーが要求する燃料の種類と品質に即して燃料をどう調達するかを検討することも求められます。
なお、ボイラーの選択としては、熱形態(温水、蒸気)、燃料(乾燥チップ、湿潤チップ、ペレット、薪)、規模等を整理し、そこから対象となるボイラー機種を具体化します。機種の特定は、FS調査の段階では方向性を明らかにし、基本設計、あるいは実施設計の時に最終的に決定されます。
関連ページ
ボイラーの選択と合わせ、熱利用システムの内容について検討します。
木質バイオマス熱利用システムの関連仕様項目と考慮事項(参考)
区分 | 種類、仕様 | 考慮事項 | |
---|---|---|---|
木質バイオマスボイラー 関連設備 | 設備機器 | 設備種類 | 調達又は利用を想定するバイオマス燃料の適合性 |
設備運転タイプ | 必要システムの有無(自動着火、消火等) | ||
設備出力 | 熱需要に対応した適正規模 | ||
設備仕様 | 施設の熱需要特性に応じた機器出力、規模など | ||
システム効率 | 事業性への影響を考慮した高効率システムの設計 | ||
年間運転時間 | ボイラー対応年数の想定、定期メンテナンス性を考慮 | ||
燃料搬送装置 | 使用燃料との適合性、燃料の供給方式など | ||
煙突、煙道 | 煙突種、対応構造 | ||
灰処理対応 | 出し方式、処理頻度などメンテナンス性を考慮 | ||
蓄熱タンク仕様 | タンク構造種類と対応するタンク温度構成など | ||
バックアップ設備 | 施設の既存設備で対応か、新規設置か | ||
熱供給配管 | 新規設置建屋から既存の設備室までの距離 | ||
付帯設備 | 運転管理上の必要となるシステムの有無 (熱管理システム、遠隔監視装置など) | ||
使用燃料 | 燃料種 | 燃料種・燃料形状・水分量など | |
最大日使用量 | 搬入可能な燃料量の把握。季節変動に伴う燃料補給の運用面 | ||
建屋・設備室 燃料サイロ | 建屋・ 設備室 | 建屋延床面積 | 当該地における必要スペースの確保 |
建屋構造 | 構造種による建設判断、低コスト化の検討 配管構成やスペースの確保など | ||
燃料 サイロ | 燃料サイロ規模 | 想定時期、何日分収納、サイロ充填率など、運用面の想定 | |
燃料サイロ構造 | 地上式・半地下式・地下式など、燃料補給の運用性など |
なお、関連設備の仕様についても、FS調査の段階では概略を検討し、基本設計の段階でより詳細な検討を行うことになります。
木質バイオマス燃料の調達可能性調査
ボイラー規模と稼働状況が想定されると燃料の必要量が把握できます。
燃料の調達可能性については、事業構想の段階で大まかに把握していた供給業者についてその実態と供給される燃料の品質についてより詳細な調査を行います。木質バイオマス熱利用システムに関するトラブルの多くは燃料に起因するとともに、エネルギー効率の確保等のためには、ボイラーの要求する燃料品質が前提となります。
燃料供給について把握すべき事項は以下の通りです。
- 地域における燃料供給業者のリストアップ
- 燃料供給業者ごとの燃料の種類と品質(原材料、形状、水分、灰分等)
- 価格
- 運送ルート
- 運送車両と導入予定施設への搬入
- 調達の時期的変動等への対応可能性
- 将来に向けての安定調達の可能性
関連ページ
事業用地等の条件把握
事業用地については、都市計画法等の法規制の状況について確認します。
規制の確認と併せ、導入すると想定するボイラー及び関連施設の配置がどのようになるかを検討します。特にサイロへの搬入等については円滑な対応ができるかどうかを確認します。地域住民等から、運送車の出入り、騒音、臭気等についても理解が得られるか確認します。
事業収支試算と事業性評価
FS調査での事業収支試算は、事業構想レベルとは異なりより具体的になりますが、熱需要分析の精度等に合わせて未だ概算にならざるをえません。ただし、積算に当たってはできるだけ根拠が明らかにされるようにしていくことが必要です。
この試算に基づき事業性を評価します。これらFS調査結果をまとめるに当たっては、事業モデルとして5W1Hが明確になっているかを再確認するとともに、事業リスクについても改めて調査内容を検証しリスクの最小化が図られているかを検討します。
バイオマス熱利用システムの運転開始後の事業リスク
No | リスク項目 | リスク要素 |
---|---|---|
1 | 機械的故障のリスク | 燃料とシステムの適合性 システムの運転・管理体制 日常のメンテナンス対応 |
2 | 燃料の調達に関するリスク | 燃料価格の変動、燃料の競合・枯渇 エネルギー供給事業者の消失 |
3 | エネルギー供給価格の変動リスク | 燃料価格の変動 エネルギー供給先の事業性 エネルギー供給運送体制 |
4 | 対人・対物事故のリスク | 平時のシステムの運転・管理性 専門人材の確保 災害時の緊急対応など |
5 | 周辺地域への影響リスク | 騒音・排煙など |
関連ページ
地域住民・関係者への事前確認
FS調査の結果は、事業に着手するかどうかを決める大きな判断材料です。基本設計段階で最終判断をすることもありますが、事業の円滑な推進、経費の有効活用から見れば、FS調査結果でおおむねの判断をすることが望まれます。
そのため、調査結果に基づき組織内の関係者の同意を得るとともに、地域の関係者にも積極的に説明し理解を得ることとします。その場合には、事業そのものの事業性に加え、GHG削減効果や地域経済への波及効果等についても整理し提示できるようにします。
特に、導入予定地の周辺住民や燃料供給業者等事業の運営に実際的に関与することになる者、融資を受けようとする場合の金融機関等については率直な意見が聞かれるよう配慮します。